ひとり映画日記2

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観ていて苦しい映画『ロストケア』(結末にふれています)

 映画『ロストケア』を観ている間、なんだか嫌な気分だった。嫌な話であることには間違いないが、ストーリーとは別に映画自体になんとなく「嫌だ」と思っていた。松山ケンイチ長澤まさみの豪華共演、小説の映画化でお金もかかっていそうな一作。サービスデーにテアトル新宿で観てきた。キャッチコピーですでに書いているからここでいっても問題ないだろうけれど、松山ケンイチ演じる高齢者の介護ヘルパー・斯波(しば)は42人を殺害していた、という話。長澤まさみ演じる検事はそれを突き止め斯波に真実を話すよう迫る。「誰が犯人なのか」はわかっているしあっさり捕まる。核はこの2人の会話。2時間が苦痛で全然好きな映画ではなかった。

 

ステレオタイプ的な若い女

 長澤まさみ演じる検事、大友はしっかりした人であり、彼女の部下が鈴鹿央士演じる男性であったこと、それを茶化すような表現がなかったことは好感がもてた。けれど斯波と同じ訪問介護の施設に勤める由紀という若い女性の描き方はいまいち。彼女は仕事のできる斯波を尊敬しており、おそらく恋愛的に惹かれているのだろう言動が随所に見てとれる。だからもちろん、斯波が逮捕されたことにかなりショックを受ける。泣き叫び事務所内をぐちゃぐちゃに......。この「泣き叫ぶ若い女性像」はしょっちゅう見る気がするが嫌だ。描き方もかなりテンプレート的で、由紀に関してはどういう人かよくわからなかった。最後に、斯波の裁判がニュースで流れているのを見つめる、性風俗で働いているらしい女性の姿が映り、おそらく由紀なのだろうが、この場面も謎でちょっと誇張していると思った。

 

映像の力と着地点

 斯波には父の介護を一人で引き受け、アルバイトも辞めざるを得ず生活保護もないまま追い詰められていった過去があった。父の頼みもあって彼を殺してしまうのが「最初の殺人」。介護や介護と育児など複数を抱える大変さは映像を見るとより切実に響いた。しかし、「家族だけが介護をしなければならない状況はおかしい」という部分に踏み込んでいるものの、結局は大友と両親の「絆」や斯波と父の「親子愛」だけが強調されているようで「そこに戻るの?」と思った。斯波と大友は、大友が打ち明けた家族のことで通じ合ったかのように描かれているけれど、そんなにきれいに収まるとも思えなかった。それがなければただただつらい話であることは間違いないが。登場人物の一人が言う、「迷惑かけていいんだって」という台詞がクライマックスに来ればよかったのではないだろうか。高齢化社会と自己責任のディストピアを描く『PLAN75』の上手さと比較してしまう。

 

 ストーリーに関しては小説を読まないとより深く理解はできないと思うけれど、映画は表面的だったように思う。聖書の引用もあまり機能していないように思えた。

 

『ロストケア』

監督:前田哲

2023年