「アセクシュアル」だと明言する人物が出てくる映画を初めて観た。『世界は僕らに気づかない』(飯塚花笑監督)だ。主人公はフィリピン人の母と日本人の父(作中には出てこない)をもつ少年の純悟。英題の『Angry Son』のとおり、ジュンは自分の置かれた状況に怒り、でもどうにもできずにいる。いない父親、母がフィリピンパブで働いていることからされる差別、ゲイであることを理由に「オカマ」と嗤われること、お金がないこと。「進学」「結婚」など、他の人物が手にしている選択肢がそもそも純悟には用意されていない。とにかく八方ふさがりの現実が描かれる。
純悟と母レイナの怒り。2人が「黙って耐えるマイノリティ」のような描かれ方をしていないところがいいと思った。レイナもはっきりと自己主張をする。ただ、第一言語では日本で通じないためもどかしそうにしている(シネマ・チュプキ・タバタという日本語字幕をつけて上映する映画館で観たが、レイナの字幕には「~ダヨ」というように、一部カタカナ表記があるところが少し引っかかる)。
この映画に出てくるのが「アセクシュアル」の女性、里奈だ。里奈は純悟と彼氏の優助に自分はアセクシュアルだと伝え、家族と子どもがほしいから協力しないかと提案する。「アセクシュアル」とはっきり示す登場人物が出てくる映画は初めて観た。純悟、優助、里奈がそれぞれ互いを気遣って同意するか確認しているところや、規範的な「家族」でない在り方を探っているところが好きだ。ただ、映画の最後の方ではあまりふれられなかったため、里奈はどうしているのか気になった。
『マイスモールランド』(川和田恵真監督)同様、日本が「外国人」とされる人をどのような状況に追いやっているのか丹念に描いた作品である。そして、ゲイであるジュンやアセクシュアルの里奈のような「性的マイノリティ」や女性のことも描く、インターセクショナリティの視点のある映画だ。タイトル通り、「世界」に気づかれない、見えないことにされている状況を描いている。