ひとり映画日記2

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いつか思い出す演劇——動物自殺倶楽部『夜会行』

 演劇を観たい!という気持ちが数年ぶりに高まっている!

 

 4月のおわりに、下北沢へ動物自殺倶楽部の公演『夜会行』(やかいこう)を観に行った。レズビアンの女性たち5人のある夜の会話劇。登場人物の一人、笑里の誕生日、彼女のみどりはパーティーの準備をし、友人ら(愛、廣川)が集まる。廣川は彼女を連れてきた。ずっとアパートの一部屋で話は進んでいく。

 その彼女(理子)が以前は男性と付き合っていたということから、愛は「本当に付き合う気があるのか」と問い詰め、険悪な雰囲気になる。しかし諦めず会話を続けていくうちに、それぞれのもつ痛みや怒りが現れてくる。

 

 こうして説明しようとすると、大事なことが零れて薄っぺらくなってしまう気がする。私がこの物語に勇気をもらって、また明日から生きていこうと思えたのは確かなのだけれど。愛の投げる言葉は辛辣だけれど、背景には、愛が受けてきたレズビアンへの差別がある。さらには様々なレベルの女性差別もある。銀行で働いている愛が言う、「窓口にいるとお金がどんどんしわくちゃのものが増えて、日本が貧しくなっていることがわかる」というセリフからも、行き詰る感じがひしひしと伝わってくる。そこでより経済的に不利な状況に置かれやすいのはやっぱり女性だ。

 そして理子もまた、元彼からのモラハラや暴力に苦しんでいた。理子が皆の前で彼に電話をかけたときに投げつけられた言葉の酷さに、皆が怒りながら風船を割る場面のパン!パン!という弾けるような音。言葉にならない怒り、叫びだ。何を言っても「女性同士で付き合う」ことが真面目に受け取られない、軽んじられることへの。

 

 しかし、話し合おうとする5人の姿を見ていて、傷ついてでも思っていることを言うことが大切だともまた思ったのだった(これは相手を差別していいということではない。相手に多少踏み込み、揺さぶるかもしれなくても言うべき時があるということだ)。理子が帰らず、愛と話し続けて、廣川にも思っていることを言えてよかった。
 言い合って皆が帰ったあと、諦めかけてた絵を再開する笑里と、それを見守るみどりの暖かさに胸が苦しくなった。幕は下りず、笑里は絵を描き続け、みどりは離れたところから満ち足りた表情でそれを見ている。半分まだ劇の中にいるような気持で外に出た。

 これから先、苦しくなっても、この演劇を観たという記憶に助けられるだろう。素敵な作品を観ると、私はなんとか生きていけると思う。動物自殺倶楽部はこの上演をもって活動休止に入るとのことだが、また『夜会行』をやってほしい。こんな、ランプのような頼もしい話をずっと続けて観られたらいいな。

 

動物自殺倶楽部『夜会行』作:高木登、演出:小崎愛美里、「劇」小劇場、2024年4月28日