ひとり映画日記2

映画・本・イギリス(アメブロ『ひとり映画日記』から引っ越し

優しいスピッツ

 

 前に向田邦子の小説を読んでいて、「スピッツが嫌い」という一文にあたりどきっとしたことがあった。スピッツ嫌いなの?というかこれはいつ書かれた作品?

よく考えたらスピッツとは犬のことなのだった。

 

 今日のスピッツはバンドのスピッツです。

 

 目黒シネマに『優しいスピッツ』を観に行った。ロビーにはスピッツのこれまでのアルバムや監督の松居大悟の紹介が飾られていて、熱心なファンが写真を撮っていた。

 

 ライブ映像だと思っていたけれど予想は半分外れた。帯広の幼稚園を借りておこなわれた、スピッツとスタッフだけの、観客のいない「ひみつのセッション」だ。宣伝で「ライブ映像でもドキュメンタリーでもない」と言われていたように、どちらとも違い劇映画を観ているような感覚に捉われた。光の演出がとても素敵だ。幼稚園の窓(普通の幼稚園でなく趣きのあるかわいらしい建物なのだ)から差し込む光から舞台演出のような青や緑のライティングまで、スピッツの演奏を引き立てていた。

 

 スピッツの曲ってこんなにいいものが沢山あったんだ。私がスピッツを、というか「音楽」を聴くようになったのはごく最近だ。誰のものであれCDは18歳を最後に買っていないし、ライブにも行ったことがない。私の好きな「チェリー」や「青い車」(どちらも本作では演奏されず)はスピッツのほんの一部なのだった。北海道のイメージだという「雪風」や「なつぞら」の主題歌「やさしいあの子」。「名前をつけてやる」のような荒々しく官能的な歌もあった。「未来コオロギ」の「最後に決めるのはさっきまで泣いていた君」の美しさ。

 歌の間に挟まれる「MC」ではない4人の会話が聴けるのも醍醐味だ。そんなに話は多くなく、短い言葉で会話が進んでいく。長くやっているバンドメンバーの間では多くを言わなくてもわかるのだろうか。それぞれは全く格好つけても偉ぶってもいない。パンフレットのメイキングディレクターのことばには、「誠実で丁寧。カメラには慣れていないという。なので、近寄ってくることはない。かといって、カッコつけることも、何かを隠すこともしない」(村川僚)とある。すごく格好いい。

 

 観に行くのはスピッツのファンなのだろうけれど、全然知らない人がふらっとこの映画を観たとしても、実は楽しめるんじゃないかと思った。ファンのためだけでもない、一つのバンドの不思議な映画。サポートミュージシャンの姿もしっかり映していたのも良かった。

 私が一番好きな歌詞は「運命の人」です。「愛はコンビニでも買えるけれど もう少しさがそうよ」。