ひとり映画日記2

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過去を感傷的には振り返らない―劔樹人『高校生のブルース』

 早稲田の文緑堂で、「アウトレット本」が売られていた。何がしかの理由で半額になっているらしい。劔樹人の『高校生のブルース』というマンガを買ってみた。

『高校生のブルース』

 大根仁の推薦コメントにある通り、「なにもできない、なにも起きない」。表紙のかなしげな、所在ない顔をした「僕」(フトシ)の高校3年の1年間が描かれる。2人の友人とくだらないことを言い合い、劣等感に苛まれ、悩み、高校生活をおくる。とても地味なマンガだ。高校生の頃ってこんな感じだったのかな。私も特に何かを成し遂げたわけではない簡素な高校生活だったので、自分を見るような思いがした。特に受験期の不安と、友人と道がずれていく寂しさは胸に迫る。吉田秋生『河よりも長くゆるやかに』ほどシビアではないが、高校生のばかばかしさがきっちり描かれている。

 作者は映画化された『あの頃。』と同じ人らしい。私は映画しか観ていないが、確かに、大阪でハロプロに燃える若いオタクたちの日々を描いた『あの頃。』と『高校生のブルース』は通じるものがある気がする。この2つのいいところは、決して「あのころはよかった」とセンチメンタルに振り返ってはいないところだ。私は『あの頃。』の松坂桃李演じる主人公が、常に「今が一番楽しい」と言っているところに胸がすく思いがした。「今が一番楽しい」はいいことだ。『高校生のブルース』のラストは大学生になった「僕」の場面で、もう友人たちともあの頃のようにつるんではいないけれど、「とにかく明日が 楽しみで仕方ない」と言う。それはすごく美しいことだと思う。

 

『高校生のブルース』

劔樹人 太田出版 2014年