ひとり映画日記2

映画・本・イギリス(アメブロ『ひとり映画日記』から引っ越し

「実写化」というか優れた「翻案」——『カラオケ行こ!』

 『カラオケ行こ!』は最も好きなマンガの一つだ。何度読んでも同じ場所で新鮮に笑える、すごいマンガだと思う。ヤクザがカラオケ大会のため練習をするというギャップと、それに付き合う(付き合わされる)男子高校生の淡々とした感じ。フキダシの外に書かれているような何気ないツッコミがおかしくてたまらない。

 

 『カラオケ行こ!』の実写化が発表になったとき、いい歳した大人が中学生に声をかけるのを実写でやるときついのではないか、という意見をツイッターで目にした。なるほどと思った。フィクションとはいえマンガでぎりぎり描ける関係性なのかもしれない。それだって成人が未成年に声をかけているという構図ではあるわけだし(『私の少年』もそこら辺の葛藤を描いていた。これはマンガの一つのテーマかもしれない)。

(以下ネタバレあり)

 

 さて、映画ではどうなっていたか? ややどきどきしながら観に行った。映画は、主人公の中学生・聡実の学校での人間関係をしっかり描くことで、「聡実の中学最後の一年間」としてうまく再構築していた。

 原作は、1巻で完結していることもあり、ほぼヤクザの成田と聡実の2人のシーンだけでテンポよく進んでいく。聡実が声変わりを迎え合唱部で苦戦しているようであることは見て取れるが、あまり掘り下げられない。しかし、映画は合唱部も軸に据え、さらに聡実が「幽霊部員」として在籍している「映画を観る部」を映画オリジナルとして付け加えた。それにより、聡実の世界が成田と2人だけの「狭い世界」に感じないようになっている。マンガでも「狭い世界」とは思わなかったが、そのまま映像化すれば2人の関係性はやや窮屈に感じたと思う。
 シリアスにはならないまでも、聡実が葛藤していることや合唱部の人間関係が丁寧に描かれる。「映画を観る部」唯一の部員との会話もいい。聡実が成田に「音」について教えるため音叉を使ったり、「紅」の英語部分を大阪の言葉に翻訳したりなど、映画オリジナルの場面がよく利いていた。特に和訳した言葉が最後にああ活きてくるとは......!

 

 そしてまあ、綾野剛の上手いこと!関わったら危ないのに魅力的という成田狂児の魅力を存分に打ち出していた。決して原作の見た目と似ているわけではないが、まさに成田。「実写化」って似せればいいってことじゃないのだ。聡実役の俳優も上手く、「紅」を歌う場面はこれは確かに見ている方が泣いてしまうかもと思った。

 

 また最初の話に戻ると、聡実の学校生活を丁寧に描いたことで、この話はそれぞれの人生の一瞬が交差した瞬間を描いていたのだと感じた。聡実は成田だけでなく、合唱部の副部長にも映画部の友人にも、後輩の存在にも随分助けられていたはずだ。
 ラストの切れ味も良かった。マンガでは聡実が高校を卒業するまで一気に時間が進むが、映画では中学卒業のあたりで、もう成田とは全く連絡が取れず、2人が会っていた場所も取り壊されるという展開になっている。あの場面で幕を閉じるのは潔くて大好きだ(エンドロール後におまけはあるが)。聡実が友人に(成田は)「お前の幻だったんじゃない?」と言われる場面があるが、なんだか聡実にとって成田が「10代の頃構ってくれた変な人」のように思え、そういう描き方もいいなと思った。
「実写化」より「翻案」が似合う、とても面白い映画だった。マンガと映画で補完し合う良さがあると思う。